愛知県の知多半島西海岸に位置し、人口約5万8,500人を抱える常滑市。同市では、日本で最も重要な統計調査である「国勢調査」において、約210名の調査員を支える緊急連絡体制の構築に050電話アプリ「SUBLINE(サブライン)」を導入しました。
この導入により、従来は不可避とされていた職員の夜間・休日における「受動的な待機時間」をゼロにすることに成功。浮いた人的リソースをデータの確認や市民対応といった、より付加価値の高い業務へとシフトさせることで、運用を改善しました。デジタルツールを活用し、いかにして「リソースの有効活用」を最大化したのか、担当の八木様にお話を伺いました。
Q. 国勢調査の業務について、詳しく教えて下さい。
国勢調査は、日本に住んでいるすべての人及び世帯を対象とする国の最も重要な統計調査で、国内の人口や世帯の実態を明らかにするため、5年ごとに行われます。調査結果は、生活環境の改善や災害対策など、さまざまな行政施策の基礎データとして利用されることになりますので、常滑市においても、自治体運営の根幹を支える極めて重要な調査と認識しています。
対象世帯の調査の実務を担うのは、総務大臣から任命された約210名の「国勢調査員」です。具体的な活動内容は、担当区域の全世帯を訪問しての調査票配布、インターネット回答の案内や記入方法の説明、さらには回収、回答漏れの確認、未回答世帯への督促など、多岐にわたる地道な実地作業の連続です。その約半数は市職員が兼務し、そのほか、民生委員や公募に応じた市民などの一般の方々で構成されています。
Q. 200名以上の調査員が動く大規模な調査において、以前はどのような運営上の課題がありましたか?
大きな課題として浮き彫りになっていたのは、社会構造の変化に伴い、事務局職員の「受動的な待機時間」が増大し、公金(人件費)や人的資源の運用効率が低下していた点です。
近年は単身世帯や共働き世帯の増加により、調査員の方々の活動時間は平日の夜間や土日に集中する傾向があります。調査活動時には「調査世帯とのトラブル」や「怪我や事故の発生」など、緊急の対応を要する場面が発生します。以前の調査では、こうした連絡に備えて平日の夜21時ごろまで、事務局職員が庁内で待機することを余儀なくされていました。
また、閉庁後の深夜や早朝といった待機時間外における緊急連絡については、市役所の「宿日直(代表電話)」を窓口にしていました。しかし、緊急時には宿日直から担当職員の「個人の携帯電話番号(080/090番号)」を調査員に伝えて対応する運用となっていました。その結果、国勢調査が終了してからも突然個人の携帯電話番号あてに電話がかかってくることもありました。
Q. 待機体制は、人件費や組織運営にどのような影響を与えていたのでしょうか。
職員の待機を伴う体制を維持することは、市民サービスや地域課題の解決に充てるべき人と時間を削って、「待機」のために費やしていると捉えることができます。5年に一度の調査とはいえ、運用体制を見直すべきと考えていました。
また、人的資源の最適配置という観点でも改善の余地がありました。以前の体制では、本来は政策判断や組織統括を担うべき部長クラスの管理職までもが、人員不足を補うために夜間の受付待機シフトに従事せざるを得ませんでした。高度な職責を担う人材を、発生が不確定な問い合わせ対応のために拘束することは、組織全体の生産性を高める上での大きな障壁となっていました。
Q. なぜ、SUBLINEという選択肢がベストだと判断されたのでしょうか。
5年に一度という「スポット業務」に対して、いかに無駄のない予算配分を行うかという点が決定打でした。 この調査期間のためだけに公用端末を新規契約し、基本料金を払い続けたりすることは、財政の健全化という観点から適切ではありません。
SUBLINEであれば、既存のスマートフォンを活用しながら、期間中だけ050番号を付与できます。新たなハードウェア投資が不要で、必要な期間だけ契約できるこの無駄のないコスト構造は、予算を有効に活用したいという私たちの考えに合致していました。低コストで安全な窓口を構築し、一般財源を他の市民サービスへ振り向けられる。この合理性こそが、自治体DXのあるべき姿だと感じています。
Q. 具体的にはどのように運用したのでしょうか。
今回の改革では、市公式LINEとSUBLINEを組み合わせた「情報の交通整理」を徹底しました。
日常的な調査資材の補充依頼や定型的な質問などはすべて市公式LINEのチャットに集約し、一方でSUBLINEは「怪我や事故など、即時対応が必要な緊急連絡」専用の窓口として運用を切り分けました。SUBLINEは各自のスマホにインストールするアプリ形式のため、特定の共有端末を交代で持ち歩くといった物理的な手間も一切ありません。これにより、電話の着信数そのものを「真に対応が必要なもの」だけに絞り込み、時間と場所の制約も解消することができたのです。
その結果、以前のように、平日の閉庁後夜21時までや休日に役所で待機したり、宿日直経由で個人の番号を公開して連絡を待ち続けたりする必要は一切なくなりました。
Q. 平日の21時以降や休日は、どのように対応されていたのですか?
SUBLINEの「自動応答機能」を活用しました。早朝・夜間の時間帯は自動音声に切り替え、ガイダンスでメッセージの録音を促します。録音が入った場合、担当者がその内容を即座に確認し、「事故が発生した」「怪我をした」といった緊急性が極めて高い事案については、その場ですぐに折り返し連絡を行い、初動対応にあたります。一方で、翌朝の対応で支障がない事務的な内容であれば、翌開庁時間に改めて連絡をするというフローを構築しました。
このように「録音内容から緊急性を判断して折り返す」というルールを明確にしたことで、職員を常に電話に縛り付ける必要がなくなり、物理的な庁舎待機だけでなく、常に電話にすぐでなければいけない、という心理的負担も軽減することができました。
Q. 市民サービスの観点からどのような効果を実感されていますか。
最大の成果は、徹底した「リソースの適正運用」を実現したことです。待機体制の廃止によって最適化されたリソースを、データの確認や市民の皆様への丁寧なご案内、さらには地域課題の解決といったより付加価値の高い行政実務へとシフトさせることができました。また、管理職が本来の組織統括に専念できる環境が整ったことで、行政組織としての全体的なパフォーマンス向上にも繋がったと感じています。
調査員の方々(市民)に対しても、個人の携帯番号ではなく「公的な緊急連絡先」を提供できたことで、協力していただきやすい環境を整えることができたと思います。なにより、運用を変えても問題なく統計調査を終えることができ、安堵しています。
Q. 今回のお取り組みを振り返って、いかがでしょうか?
SUBLINEとLINEを組み合わせた今回の取り組みは、単なるツール導入ではなく、それ以上の価値がありました。
それは、「変えにくい」と思っていた自治体の慣習を変えるという成功体験を、職員全員で共有できたことです。この自信が、他の業務におけるDXを加速させる大きなきっかけになると感じています。
Q. 今後の展望はありますか?
今回の成功を一つのきっかけとして、この「場所を選ばない連絡体制」を庁内で横展開していきたいと考えています。人的リソースをいかに「市民サービスをより良くするための創造的な仕事」へシフトさせていくか。これからもデジタルツールを積極的に活用し、より効率的で持続可能な常滑市の未来とよりよい市民サービスを追求し続けていきたいです。
Q. 同じ自治体の方にメッセージをお願いします。
国勢調査の待機体制廃止、待機時間ゼロは、多様化する市民サービス等を限られた人的リソースで担う必要のある昨今の環境において大きな効果があったものと感じています。ほかの自治体の方も悩まれている部分になるかと思いますので、少しでも皆様の参考になりましたら幸いです。
自治体の業務、特に国勢調査のような大規模な事業は前例踏襲に陥りがちです。しかし、既存の手段を大切にしながらも、運用の形をアップデートすることは十分に可能です。「まずはやってみて、改善を重ねていく」という一歩が、自治体DXを成功させる鍵になると信じています。
取材を終えて
今回の常滑市役所様の取材を通じて、最も印象的であったのは「待機時間ゼロ」という言葉の裏にある、行政としての業務に対する責任感でした。
「変えにくいと思っていた既存のやり方を変え、改善を重ねていく」これは想像以上に簡単なことではないと、取材の中で感じました。それでも確固たる信念を持って行動に移された常滑市様に、深く敬意を表します。
市民の皆様から預かった大切なデータを正確に未来へ繋ぐ重要な国勢調査にて、調査作業の「インフラ」を支えられたことを、私たちは心から嬉しく思います。 これからもインターパークは、常滑市役所様の「市民のためのDX」という挑戦を応援しています。
常滑市役所 国勢調査事務局(企画部企画課内) ご担当者様
ご協力ありがとうございました
